シルキィ(→ウォン)


優しい人が、好きだった。

お菓子をくれるみたいに
甘やかしてくれる人が、好きだった。





あなたは、わたしに見向きもしない。

初めて出会った時から、ずっと。



わたしはあなたの仲間に、城の三階から落とされて
わたしが知ってる、一番優しい人が助けてくれたけど

投げられるその瞬間まで
あなたは、心底どうでもよさそうな顔をしていたのを覚えている。



わたしだけじゃない。
大抵の人が、あなたにとってはどうでもいい人。

あなたは、本当に冷たい人。
幼馴染のリュオしゃんですら、
あなたにとってはどうでもいい人間の一人。

知っていた。
だからわたしもあなたは冷たい、酷い人だと言い続けていた。

・・・顔だけしかいいところがないとか、
今考えるとわたしの方が酷いことを言っていたかもしれない。

それでもあなたは興味なさげに、まるで聞こえていないように振舞う。
獣魔は、耳がいいはずなのに。
多分、本当に聞こえていなかったんだろうな。
わたしのことなんか、興味がないから。

わたしも同じだった。
どんな育ち方をしたら、こんな冷酷な人間になるのだと
それくらいしか、あなたに対する興味はなかった。










でも


優しい人が、あなたを変えて行った。
変えたのではなく、元々そうだったのだと優しい人は笑って言った。

この人は、すごい。
いつも人にはできないことをやってのける。
人が簡単にできることは、できなかったりするのに。

それでもあなたの態度は、優しい人以外にはあまり変わらなかった。





あの時はわたしを見捨てたあなたが
わたしを助けてくれた。

あなたの少ない言葉は変わらず、冷たいものしか出てこないけど。


見捨てられても、仕方がない。

そう思うほどに身勝手な理由で、わたしはここにいたのに。
あなたは、わたしを守ってくれた。



「お前には関係ない」
あなたにそう言われて、ひどく腹が立った。
だから優しい人のところに戻れと、続けてあなたは言った。

わたしは、半分精霊で。
一時的に精霊たちと同じになる、精霊化の力があることは知っていた。
でも自分があの小さな精霊たちと同じになるだなんて、こわくて
今までしようとも思わなかったのに。

からだが勝手に動いた。
関係ないというのなら、関係あるようにしてやろうと思った。

この相変わらず、無関心で、非人情で、冷淡で
自分の意思なんて存在しないような、あなたの中に。
無関係じゃないわたしを、作れるのなら。
こわくなんか、ない。










あなたは、冷たい人。

困ってる人がいても、見て見ぬフリをするような人。

甘やかすどころか、こっちを向いてもくれない人。

私が好きだった、優しい人とは対極にある人。



それでもいい。

あなたの側にいさせてね。

大好きな、わたしの宿主。



シルキィの宿主は、ウォン。最初と最後以外に出てくる優しい人は、ライト。
(2013年)


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