精霊王


「おい。一つだけ聞いていい?」

ここ最近、精霊王である我に不遜な物言いをする相手が急激に増えた。
お陰で行く先々で我が精霊王だとバレずに済んでいる。実にいいことだ。

今話しているのは、宿主オルガニクスにライトと名付けられた――始祖の精霊。
我がエゼスネントに下りることになった素因。


「なんだ?」
「この馬鹿げた争いは、僕が死ねば終わるのか?」
「…寧ろ逆だろう。汝が死ねば人間は精霊を全て滅ぼそうとし、精霊たちはそれに逆らう。争いは加速する」
「………そうだよね。今更…」


今更?それは違う。

「汝は死ねはしない。わかっているだろう」

だからこそ汝は、我の元から逃げたのだろう?
無意味に汝を殺し続けた、愚かな我から。


「汝が心を痛める必要はない。汝の所為ではないのだから」
「僕の所為じゃ、ない?どの口が、そんなことを」

この口だが。

汝がそう思うのも仕方あるまい。
我は元々、汝を殺す為にエゼスネントに下りて来たのだ。

それが不可能だと理解した時、勝手にも協力を仰いだ我を汝は嫌悪していたな。


―それがどうだ。
今では我の宿主であるファングと並ぶぐらいに、我を支えてくれている。

汝を見ていると、心が広すぎるのも考えものだと思ってしまうよ。
本人に伝えると「お前にだけは言われたくない」と返されてしまったが。
…何故だ?



「我の無知故に、汝に誤解を与えたのならば謝ろう。しかし…」

「…黙れよ」

「黙らぬ。汝は何の為に自分を責める?汝が自分を責めた所で、何か変わるのか?」
「…お前にだけは言われたくないんだよ、この馬鹿精霊王!!ドチビ!!」

チビ。その罵声なら、以前も聞いたことがあるぞ。確か…
背が低い、とかそんな意味だった気がする。
我は子供のオルガよりも小さいからな。それは否定できぬぞ…。

そしてド。とはどういう意味だ。
いかんな。人間社会に溶け込んでからの日数はそう変わらないというのに…我の方が遅れている。
ファングは無口だからな。オルガといるライトの方が、より学ぶ機会が多いのだろう。
ムム…


しかし精霊王、まで罵言に含んでしまうとは…
相変わらず、汝は発想が豊かだな。

「汝の方がチビだろう…」

ファング、我はやったぞ!いつもは言われっぱなしだが、今日は言い返せた。
だってそうだろう?小さいと言っても、我は140cmはある。
それに引き換え、精霊である汝は精々18cm程度しかない。これは我の完全勝利だな!

「それは僕は精霊だからですー人間だったら絶ッ対お前より高い!」
「そんな無駄な仮説を…」
「………………………………」


ライトはそのままそっぽを向いて、どこかへ飛んで行ってしまった。





ライト。
汝は否定するが

汝は、やはり優しいよ。



我も含めた、汝が死んで当然と思う人間たちを怨まずに

汝をそんな風に創った大樹こそを嫌うと、言い切った。


自分と同じ形をした、数多の精霊たちの死も

その最期の呪いのような言葉も

汝は全てを受け入れて、前に進み続ける。


その心に、我は本当に助けられてきた。
感謝しているのだ。





汝は強い。

だからこそ。


汝にいつまでも、凭れ掛かっているわけにもいくまい。

我は、この世界を統べる者。
精霊王なのだから…。



真面目な話をしてる時にも思考はどこかズレている、それが精霊王クオリティ。
同じ大きさだったら、ライトの方が高いですね。
(2013年)


Copyright(C)Yuu Asato.All rights reserved.



inserted by FC2 system