ダーク(界魔大戦〜本編)


ライト(あいつ)と出会った時、オレには名前なんてものはなかった。
別にいらないと思っていたし、正直自分の名前なんてどうでも良かった。
だからあいつが勝手に呼び始めた『ダーク』という名前がいつからか、オレの名前になっていた。

あの頃のオレにとって、オルガは『ライトの宿主』で。
クロナは『ライトに懐くウゼェ奴』だと思ってた。

オレの世界は反吐が出そうなくらいに、ライト中心で。
固有名詞で存在しているのは、ライトだけだった。





「…ねぇ、ダーク。この世界にはオルガも、ノヴァも、他の人間も、他の精霊もいるんだよ」
「?」
「視野を広げてみても良いんじゃないの?ムカつく奴だって、殺したいほどウザイ奴だって、僕以外にもいるって」
「そんなマイナス面ばっか増えたって全然嬉かねぇ」
「あ、そ。なら何て言えば、ダークは僕に興味をなくしてくれるのかな?」

「簡単な話だ。テメェが死ねば興味はなくなる」
「…話にならないね」

認めたくはないが、ライト(こいつ)はオレが生まれてくる理由になったヤツだ。
どうあったって、オレの存在する理由そのものであるこいつに勝るものなんてオレの中には存在し得ねぇ。



憎いのも、殺したいとまで思うのも。オレにとっては、ライトしかいなかった。










ライト(ヤツ)がいなくなった。そう騒いでいたのは、オルガ(ヤツの宿主)だった。
どうせまたどっかフラフラと出歩いて、どっかのバカ脅してるだけだろ。
毎度、呆れ果てる。ヤツの捻じ曲がった根性も、ヤツの強さも知ってるのにご丁寧に心配してやるヤツの宿主にも。それにつられてる精霊王にも。
ヤツの宿主共の会話にそれ以上の興味はなく、オレはその場を去った。



「誰も僕には勝てないのにね。…あーあ。馬鹿ばっかり」
…ハズなのにな。何でオレはこんな所にいるんだか…。

少し、外へ出てみようと思っただけだった。
偶然にもライトを見つけてしまったオレは、物陰から黙って様子を見ていた。
ヤツの足元に転がってるのは、オレたちと同じ、精霊。


精霊王ノアは、オレたちに協力を頼んできた。
自分が後先考えずに作った、精霊という名の人形共の後始末を。
ライト(ヤツ)はすげぇ嫌がって、嫌悪感を隠そうともしていなかった。

嫌がってたのにな…時々、こうやって魔力を感じては人間を殺して遊んでる精霊共を倒しに行く。
オレだって、精霊の魔力が近くにあることには気付いてた。
だが、オレはそんなめんどくせぇことはしない。誰がしてやるものか。
何、考えてんだか…。


「おや、ダーク。どうかしたのかい?」
黙って帰ろうと思ってたのに、声かけんじゃねぇよ。めんどくせぇ…。

「…どうかしたのかい?じゃねぇよ。フラフラ、フラフラと。夢遊病か何かかテメェは」
「別に、僕の勝手だろ?」
「オレだってテメェなんてどうだって良いんだよ。つーか今すぐ死ね」
「今すぐ死ねって…どんな無茶振りだよ」
こいつはいつも馬鹿にしたように、笑う。あぁムカつく。ウゼェ。

「オレはテメェなんてどうでも良いんだけどよ。ノアたちが心配してたぞ」

オレがそう言った途端、いきなり吹き出しやがった。汚ぇ!
何がそんなに面白いんだ、こいつは。
「いや、ははは…同じこと2回言ってくれなくても、分かってるよ。後それは僕の心配じゃなくて、僕が何かやらかしてないかって心配だね」
「…………」
「何?」
「お前って…。…いや、何でもねぇ」
こいつは変なところで卑屈だ。
オレはともかく、テメェの宿主共がそんな風に思うと思ってんのか?


「あのダメクロ、テメェにしか懐いてねぇから、テメェがいないと泣きっぱなしで鬱陶しいんだよ。…さっさと戻って来い」
事実、先程もダメ野郎こと風の精霊クロナの泣き声がすさまじく、鬱陶しくて外に出ちまった。
本当にオレたちと同じ精霊か?あいつは。
「クロナかぁ…ダークが泣かせてるだけじゃないの?ガミガミ怒鳴ってばかりで顔が怖いから」
言いながら、また笑う。何で楽しくもないのに笑うんだ。ワケ分かんねぇ。

「無駄にニコニコ笑ってる、気味の悪いヤツに言われたかねぇよ」
「怒ったって何も変わらないじゃない。無駄に疲れたくないよ僕」
「…………」
笑ってたかと思えば、急に無表情になる。
こいつの笑顔(間抜け面)なんて、いつもそうだ。ただの、作りモノ。

「…そうやってすぐ睨むから、怖がられるんだろ?じゃあ、帰ろっか」
そう言って背を向けたヤツの左腕が、まともに上がっていないことに気が付いた。
周囲は既に夜の闇の中で、普通のヤツなら暗くて見えないんだろうが。
闇の精霊であるオレは、夜目が利く。
すぐにヤツの腕が折れていることに気付いたが、言ってやるのもめんどくせぇから放っておいた。





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